彼女日記

ここ数か月。彼女は転職とかなんとかでとても忙しそうだったから

私は距離を置くことにしていた。

といっても全く会わなかったわけではないし、なんなら毎日電話をしていた。

 

大体の電話の内容は

・転職の不安

・将来の不安

・明日の髪型の不安

・体重の不安

・健康の不安

・エイジングの不安

 

不安・不安・不安・不安・不安…

彼女は日々本当に多くの不安を抱えているのだ。

 

結局今日もそんな不安の話をしていて、私が彼女の不安の回答を

考えている間に、うっすらといびきが聞こえてきた。

 

別に私はこれを怒ったりしない、むしろゆっくり彼女が

眠れていることはすごくうれしいことだ。

ただ、頭を回転させ真面目に聞いていたこちらの目はばっちり覚めてしまった。

明日仕事だというのに…

 

彼女は今月から新しい職場に通っている。

今までの未経験の業界職種だけれども、彼女はとても生き生きしていて

楽しそうなのだ。

 

彼女は不安を抱えやすいぶん、誰よりもいろんな事を考えている。

といっても殆どが自分のことなので、世の中の役に立つかはどうか分からないが。

 

最近彼女は本当に気持ちが落ち着いているようだ。

在宅の日の朝は、できる限り早く起きて、掃除機掛けをして洗濯物を回して

鼻歌を歌いながら楽しんでいる。

 

私は彼女のそんな姿をみると少し瞼が熱くなる。

 

そうやって彼女を眺めていると

 

「どうしたの~なんでそんな悲しそうな顔でこっちみるの~?」

といいながら、ニコニコして私を元気つけようとしている顔を

向けていた。

 

彼女の感じている不安ってこんな感じなのかなと

ふと思った。

彼女日記

「もう見て~笑っちゃう」といいながら彼女は自分の髪型を見せてきた。

確かに、家を出た時と今とじゃ美容院に行ったの?と聞きたくなるくらい彼女の髪型は変わっていた。

 

彼女は外国に行ったときに本当に日本人?といわれるようなとてもかわいいパーマを持っている。

チリチリではなく所謂外国のかわいい子供によくあるような髪の毛だ。

ドライヤーをすれば普段それは顔を出すことはないが、

今日みたいな雨が+風の日にはドライヤーのセットなんて意味をなさない。

 

「これじゃ私、昨日の夜強いパーマかけたとお客様に思われちゃうよ」

 

二日連続会うお客様に会いに行くので、そんなことを気にしていた。

というより気にするふりをしていたのかな。

 

彼女がこのパーマを気に入ってることを私は知っている。

 

スーツに似合わないからと、ロングの時はわざわざストレートをかけたいたが

本当は自の髪の毛が好きなんだ。

 

だってそれが彼女の素なんだもんな。

私も彼女が素で居る時が一番好きだ。

 

家に帰っても彼女はすごく穏やかだった。

明日が土曜日だからだろうか。それとも昨日気が済むまで泣いたからだろうか。

「今日はねこんな気分なの」

といいENYAのDark Sky Islandを流し始めた。

これは旅行先のホテルで出会って好きになった曲だから、

今日の彼女は本当に楽しい気分なんだなという事が伝わった。

 

彼女日記

さっきまで泣いていて、「生きる意味が分からない。生きているのが辛い」

なんて騒いでいたのが噓のように、

お風呂後のスキンケアを一生懸命している彼女が居た。

 

本当に生きているのが辛かったら、そんなに一生懸命何個もクリームなんて

塗らないよ

って言いたいが、そこは心にしまってそんな彼女をみていた。

 

最後のクリームを塗り終わった後、まるで”どうよ”とでもいう様な顔で

ニコっとこちらをみた。

てっかてかになった彼女に向ってGOODを示し、彼女の満足したような顔を見る。

 

私はそんな彼女の顔が好きなんだ。と思った。

 

今日は仕事が本当に忙しく辛かったらしく、

帰宅してわんわん泣いていた。

 

彼女は少し完璧主義な所があるので時間内に思っていたすべてのタスクが終わらなかった自分を責めていた。

 

完璧なひとなんていないんだから、そういう日もあるよ。

 

といっても彼女は

「私の完璧なんて一般人の50点くらいだもん」といいまた泣き出してしまった。

 

残念ながら私にはこうなった彼女を立ちなおさせる力がまだない。

まだそれは彼女の中にあるのだ。

 

そんな時間も過ごしたが今はスキンケアに満足したのか、

早く寝る前の読書の時間に入りたいのか、とろんとした目で私を読んでいる。

 

彼女が今日も良い夢をみれますように。

彼女日記

今朝、彼女は泣きそうな顔をしてこちらを見ていた。

 

「怖い夢をみたの…」

 

彼女は毎日夢を見る。

そして、その夢によって一日の気分がかなり大きく左右される。

 

彼女の夢の内容はこうだ。

合唱コンクールでピアノを弾くことになったのに、本番になってピアノの上の楽譜をみたら、見たこともない曲だった。

 

でもその日は本番だし、ピアノがちゃんとしてないなんて皆に迷惑をかけるだけだ。

他のクラスはずっとこの数ヶ月練習してきた。

ここで自分が弾けないと、今まで何をやってきたんだと言われてしまう。

しかし、彼女は今初めてこの楽譜を見たのだ。

でもそんなことは、誰にも伝わらない。

伝えたところで信じてもらえない。

そんな焦りから彼女は目を覚ましてしまったようだ。

 

合唱コンクールなんてないよ。

と優しく彼女に伝えても、聞く耳を持ってくれなかった。

 

彼女は繊細だ。

きっと今日大きな商談があるからその緊張からそんな夢を見てしまったのかもしれない。

 

私は美味しい紅茶を入れ、彼女の大好きなクラシックをかけてあげた。

 

彼女日記

今日の彼女はすこぶる機嫌がよかった。

昨日まで私がつきっきりで、彼女の代わりをしてあげたからかもしれない。

 

仕事が終わって(現在は在宅ワークがメイン)

彼女はすぐにヴァイオリンの練習を始めた。

彼女は昨年の12月、ふと暇だからという理由でヴァイオリンをはじめたのだ。

 

彼女は、弱くてすぐいろんなことを思い悩んでしまうけれど

音楽と触れているときだけはとても芯の強い女性になる。

 

私も彼女がそれに没頭している時は、優しく見守ることにしている。

彼女はヴァイオリン以外に小さいころから、ピアノとフルートをやっている。

どの楽器の時も彼女はとても一生懸命に楽器の練習に向き合うのだ。

 

まだ楽器を鳴らす段階で、悪戦苦闘している彼女を見ると安心する。

彼女が普段悩むような世の中の遣る瀬無い出来事が、全部この世から消えてしまったように見える。

ずっと彼女にはこの瞬間だけが訪れればいいのに。

 

そんなこ事を考えていたら彼女の練習は終わっていた。

 

「ケーキが食べたい」

 

なんとも唐突だが、それが彼女のかわいい所だ。

彼女は自分の母にケーキ食べたくない?と誘いをかけ

車で近くのケーキ屋さんにケーキを買いに行った。

 

今日の彼女は私が心配する事もなく、幸せそうな日々を送れたので

私も気を張らず、ゆっくり休めた。

 

明日も彼女にとって良い日になりますように。

 

彼女日記

今日から彼女について書こうと思う。

彼女は私のとても大事な人で、ずっと見守ってきた。

 

彼女は対外的にはとてもパワフルで人当たりが良く

人に好かれる存在だ。

だからこそ、いろんな局面に直面する事がある。

そんな時いつも人より激しく傷つく。

 

そう、彼女はだれよりも繊細で誰よりも壊れやすいのだ。

最近になって彼女はやっとそれを自覚したのか

少しずつ”誰かに頼る”という事を覚えたのだ。

 

そんな彼女のことを少しでも残していけるように書こうと思う。

Lei

その当時、私は何かにとらわれていた。

それは孤独から始まり悲しみを超え、

死に近いものだったのかもしれない。

一人の友達の死が私を強めてくれている感じがした。

 

その子は確かに学生時代とても仲の良かったこではあったがそれ以上なにか

続くものがあった関係ではなかった。

 

しかし、27歳になる年彼女は死を選んだのだ。

大切な家族を残して。

 

その年は世界恐慌だった。

新種のウイルスが全世界中に蔓延し、人々は自分の国に閉じ込められるだけではなく

多くの時間を隔離された自分の家で過ごさざるを得なくなっていた。

 

そのせいで多くの人が自分と向き合う時間を余儀なくされた。

それは多くの人にとって、苦しみであり孤独の時間の始まりだった。

 

私と彼女はそんなに多くの時間を過ごしたわけではない

ただどちらかというと一つの共通点があった。

物事に思い悩みすぎるところ。

 

これは決して良い共通点だとは言えないだろう。

 

私はたちは夜までお互いの悩みを打ち明けあった。

ただ、悩みすぎる私達だけではお互いの悩みを解決する術を持ち合わせていなかった。

そして、私達の悩みはあまりにもかけ離れていた。

ただ似ているのは、少し悩みすぎるということ。

 

だからと言って私達は自分たちの不幸を連ねて

人生に悲観していた訳ではない。

少し悩みすぎるところはあったけれども、

それなりに人生を謳歌していた。

 

その証拠にはならないが、彼女は大学を卒業してすぐに結婚をした。

学生時代から付き合っていてぞっこんだった彼との授かり婚だった。

 

私もそれなりに祝福した。

しかし、卒業後お互いの進路の違いからなかなか会う機会がなくなっていた。

 

だから彼女の近状はいつもSNS最新情報だった。

 

彼女は聡明ではないが、とても可愛く

男の子にモテるタイプだった。

そのため私以外の女友達を私は知らない。

 

彼女の死の報告は彼女がなくなってから

共通の友達伝えに知った。

 

私はここ一年ほどSNSをやる時間もないほど

自分のことに追われていた。

そんな中、彼女は着々と死に向かっていたのだ。

 

友人から見せてもらった彼女のSNSには

その後生まれた娘との写真、そして両親との旅行の風景。そして彼女自身の写真。

そのどこにも彼女があれだけ愛した旦那の写真は無かった。

 

あとから聞いた話だが、彼女は

子供が生まれて2年ほど経ったあと旦那と離婚していた。

 

彼女の最後の投稿には、

その元旦那へ恨みの言葉と、親への感謝、そして子供を頼むとの言葉だけだった。

そこに我が子への言葉は無かった。

 

それが全てではないけれども、

私から見える彼女の人生はそれが全てだ。

 

私も物事に悩んで、この世の中の苦しみに

何度もぶつかった人間だ。

 

しかし、その度に親から受けた生。

そして生きることのへの責務。

その2つが私を死から留まらせてくれた。

 

ただ、この問題はどんなに考えても答えはないのかもしれない。

 

もし、自分の人生から逃げたくなったら、

一度誰かのために一生懸命生きてみようと思った。

 

そうしたら、私は彼女とは

違う生き方ができるのかもしれない。

 

私達は少し悩みすぎるということが足掛けになっているだけなのだから。